不動産投資では、「どの物件を買うか」が注目されがちです。
しかし、大家を10年以上続けて感じるのは、買う勇気と同じくらい、買わない決断が大切だということです。
私自身、大家になったばかりの頃は、不動産会社から物件を紹介されると、購入する方向で考えてしまっていました。
「せっかく紹介してもらった」
「銀行も融資を進めてくれている」
「ほかにも購入希望者がいる」
「今決めなければ買えなくなる」
このような気持ちが重なると、最初に感じた違和感を見ないようにしてしまうことがあります。
今回は、実際に購入を見送った海沿いのアパート、昼と夜で印象が変わった物件、キャンセル料を払って見送った戸建て、そして違和感を抱えながら購入した4棟目の経験から、「買わない決断」の大切さをお伝えします。
大家になった頃は買うことばかり考えていた
不動産投資を始めた頃は、とにかく物件を購入したい気持ちが強くありました。
不動産会社から紹介を受けると、
- 担当者さんが一生懸命探してくれた
- 銀行も融資の話を進めてくれている
- ここで断るのは申し訳ない
- 次に良い物件が出るとは限らない
と考え、購入する理由ばかり探していました。
しかし、不動産は数百万円、数千万円という大きな買い物です。
紹介してくれた方への申し訳なさや、ここまで進んだ手続きを理由に購入すると、その後の返済と管理を長期間続けるのは自分です。
誰かに悪いから買うのではなく、自分が本当に納得できる物件かを判断しなければなりません。
「今すぐ決めてください」と言われると焦ってしまう
物件を検討していると、不動産会社から次のように言われることがあります。
「今決めていただければ話を進められます」
「ほかにも購入希望者がいます」
「2番手、3番手の方も検討しています」
実際に、条件の良い物件が早く売れることはあります。
そのため、
「今決めなければ、ほかの人に取られてしまう」
という焦りが生まれます。
私が不動産投資を始めた頃は、今より融資が出やすく、購入希望者も多い時期でした。
担当者さんが熱心であればあるほど、
「今がチャンスなのかもしれない」
と考えてしまいます。
しかし、急がされている時ほど、冷静に確認する必要があります。
不動産会社が決断を急ぐことにも理由がある
決断を求められるからといって、不動産会社や担当者が悪いということではありません。
担当者さんにも、
- 本当に良い物件だと思っている
- 実際にほかの購入希望者がいる
- 売主から早い回答を求められている
- 契約をまとめたい
といった事情があります。
また、購入希望者は家へ帰って時間がたつと、冷静になります。
購入意欲が高まっている時に話を進めたいという営業上の考えもあるでしょう。
ただし、担当者側の事情と、自分が購入すべきかどうかは別の問題です。
決断を急がされた時ほど、一度立ち止まり、自分の基準で確認することが大切です。
写真と現地では印象が違うことがある
物件資料やインターネットの写真を見て、
「良さそうな物件だな」
と思うことがあります。
しかし、実際に現地へ行くと、写真では分からなかった違和感を覚えることがあります。
- 周辺の空室が多い
- 街全体に活気がない
- 建物の管理状態が良くない
- 近隣の雰囲気が気になる
- 音やにおいが気になる
- 道路や駐車場が使いにくい
数字や写真だけでは判断できないことは少なくありません。
「何となく違う」と感じた場合は、その理由を具体的に確認する必要があります。
見送って良かった海沿いのアパート
東日本大震災の後に紹介された、海沿いの比較的新しいアパートがありました。
資料だけを見ると、購入を検討できそうな物件でした。
しかし、現地へ行ってみると、海沿いにある周辺物件には空室が目立っていました。
一方で、少し内陸へ入ると、入居者がいる物件が多くありました。
地元の不動産会社へ確認すると、震災以降、海から離れた場所へ引っ越す方が増えたと教えていただきました。
資料の利回りや建物の新しさだけでは分からない、地域特有の事情があったのです。
結果的に、その物件は購入を見送りました。
購入しなかったことで利益は得られませんでしたが、大きな空室リスクを避けられた可能性があります。
昼と夜で印象が変わった物件
別の物件では、昼間に現地確認をした時には、大きな問題を感じませんでした。
しかし気になることがあり、夜にもう一度訪れました。
すると、近隣住民同士が大声で言い争っていました。
昼間とは街の雰囲気が違って見え、その物件も購入しませんでした。
不動産は建物だけを購入するものではありません。
入居者は、その周辺環境で毎日生活します。
可能であれば、
- 昼と夜
- 平日と休日
- 晴れの日と雨の日
- 通勤・通学の時間帯
など、違うタイミングで現地を見ると、最初の見学では分からなかったことに気づけます。
キャンセル料を払って見送った戸建て
買わない決断が必要なのは、投資物件だけではありません。
以前、駅から近い新築戸建てを検討したことがあります。
便利な立地でしたが、線路との距離が近すぎることが気になりました。
営業担当者からは、
「複層ガラスなので大丈夫です」
と説明されました。
確かに窓を閉めれば、音は小さくなるのかもしれません。
それでも、現地で感じた騒音への不安は消えませんでした。
結果的に、キャンセル料を支払って契約を見送りました。
キャンセル料は損失です。
しかし、納得できない家を購入して長期間住み続けることと比べれば、そこで立ち止まって良かったと思っています。
違和感がありながら購入した4棟目
一方で、私は違和感を抱えながら購入した物件もあります。
4棟目として紹介されたアパートは、最初に価格を見た時から、
「少し高いのではないか」
と感じていました。
それでも、
- 家賃保証が付いている
- 毎月の手残りが増えそう
- 物件の規模を拡大できる
という期待に惹かれ、購入しました。
購入後しばらくは順調でした。
しかし約1年半後、管理会社から、
「今月は分割でお願いします」
「少し支払いが遅れます」
という連絡が入るようになりました。
その後、状況は悪化し、最終的には管理会社がなくなってしまいました。
最初に感じた価格への違和感だけで、将来の問題をすべて予測できたわけではありません。
それでも、違和感があるのに購入する理由ばかり探していたことは、反省しています。
買わないことも利益になる
物件を購入して得た利益は、数字で確認できます。
一方で、購入しなかったことで避けられた損失は、数字には表れません。
たとえば、物件を見送ったことで、
- 空室が続くリスクを避けられた
- 高額な修繕費を避けられた
- 毎月のローン返済を背負わずに済んだ
- 売りたくても売れない状態を避けられた
- 管理に使う時間と精神的負担を避けられた
可能性があります。
不動産投資では「いくら儲けたか」だけでなく、大きな失敗をどれだけ避けられたかも重要です。
急がされた時に確認するチェックリスト
現在は、「今すぐ決めてください」と言われた時ほど、次の項目を確認します。
- 本当に自分が欲しい物件なのか
- 購入する理由ばかり探していないか
- 最初に感じた違和感は解消されたか
- 現地を自分の目で確認したか
- 昼と夜で周辺環境を確認したか
- 空室と修繕が重なっても返済できるか
- 家賃保証や営業担当者の言葉を過信していないか
- 管理会社や契約内容を確認したか
- 将来売却できる物件か
- 今日断ったら本当に後悔するか
一つでも大きな不安が残る場合は、その場で結論を出さず、持ち帰って確認します。
不安を解消できたうえで、それでも購入したいと思えるなら、改めて判断すればよいと思います。
修繕や空室対策でも焦りは禁物
焦ってしまうのは、物件購入の時だけではありません。
空室が出ると、すぐに大掛かりなリフォームや家賃の値下げをしたくなることがあります。しかし、問い合わせや内覧の状況を確認すると、工事よりも募集写真や条件の見直しを先に行うべき場合もあります。
修繕でも、業者から提案された内容をその場で決めず、緊急性や工事範囲、相見積もりを確認することで、別の選択肢が見つかることがあります。
不動産会社や管理会社の意見は参考にしながらも、最終的に決めるのは大家です。購入、修繕、空室対策のどれでも、一度持ち帰り、納得してから判断することが大切です。
完璧な物件を待つこととは違う
買わない決断が大切だからといって、欠点が一つもない完璧な物件を待つという意味ではありません。
すべての物件には、何らかの弱点があります。
大切なのは、
- 弱点の内容を把握できているか
- 費用や対策を想定できるか
- そのリスクを自分が受け入れられるか
- 問題が起きても保有を続けられるか
を確認することです。
理解したうえで受け入れるリスクと、違和感を無視して購入することは違います。
まとめ|待つ勇気と断る勇気が資産を守る
不動産投資では、買う勇気や素早い決断が必要な場面もあります。
しかし、焦りや申し訳なさだけで購入してはいけません。
私がこれまでの経験から学んだのは、
- 写真と現地では印象が違う
- 昼と夜では周辺環境が違って見える
- 地域特有の事情は現地で確認する
- 急がされた時ほど一度立ち止まる
- 違和感の理由を具体的に確認する
- 納得できなければ断る
- 購入しないことで避けられる損失もある
ということです。
購入した物件だけでなく、買わなかった物件が資産を守ってくれることもあります。
買う勇気だけでなく、待つ勇気、断る勇気、見送る勇気を持つ。
それが、長く大家業を続けるために必要な判断基準だと感じています。